2021年8月6日
【PICK UP! LOCAL ACTION】#07 地域を耕すコンポスト
「PICK UP! LOCAL ACTION」は、渋谷区内のユニークな地域活動を取材し紹介していく連載です。2021年6月の地域交流・地域活動強化月間は終了しましたが、事務局では引き続き、地域に根ざして活動し続ける人たちの取り組みを応援していきます。
今回取材した取り組みは、神宮前「ことり食堂」の中里さんと、表参道で1.2 mile community compost という取り組みを行っている「4Nature」さんと一緒に、つくったコンポストを千駄ヶ谷「きっともっと保育園」のプランターの土として活用するという活動です。コンポストとは、有機物を微生物の働きによって発酵・分解させ、堆肥化させたもの。最近では持ち運びも簡単でベランダでできるコンポストもあり、都市部でも自宅で手軽に始める人が増えています。
この取り組みのユニークさは、地域の資源を地域で循環させているというサステナブルな姿勢はもちろん、土づくりをきっかけに地域のつながりが生まれたというところ。この活動は、一体どのような経緯や思いのもと始まったのでしょうか。さっそく、土づくり当日の様子からレポートします。
土づくりは、宝探し。
6月初めの、ある雨の日。きっともっと保育園にてプランターの土づくり体験が行われました。参加したのは3〜5歳の子どもたちと先生、今回のプロジェクトメンバーの総勢約20名。プロジェクトメンバーの皆さんが「先生」となり、子どもたちと一緒に土づくりを行いました。
まずは、屋根のある中庭にブルーシートを敷き、プランターの土を取り出す作業からスタート。その後、ことり食堂の中里さんが持ってきたコンポストに、4Natureさんが運営するコミュニティのメンバーさんが持参したコンポストを合わせ、三種類の土を手で混ぜ合わせました。子どもたちは、「あ、骨だ!」と言いながら、堆肥の中からチキンの骨や卵の殻を見つけていきます。目をキラキラさせながら見つけ出す姿は、まるで宝探しのよう。目のつけどころが大人とはちがい、プロジェクトメンバーの皆さんにとってもいい刺激に。子どもたちの発見や疑問を一つひとつすくい上げ、一緒に解明していきました。
(当日参加したプロジェクトメンバーの皆さん)
さらに、保育園の栄養士の方がコンポストに興味を持つなど、思わぬ影響もありました。今回つくった土は保育園の朝顔の栽培に活用されるそうですが、ここで野菜を育てて、その野菜を使ったレストランを開き、また土に還す、なんて妄想も生まれました。きっと、子どもたちにとってかけがえのない学びの場になるはず。土づくりには、まだまだ宝物が眠っていそうです。
思いでつながると、強い。
ここであらためて、今回のプロジェクトメンバーの皆さんを紹介します。
(左から)
平間 亮太さん
株式会社4Nature 代表取締役
2018年に創業し、生分解性サトウキビストローの販売や回収、堆肥化の仕組みの構築に取り組む。またそれらの資源循環と並行し、コミュニティマーケットやコミュニティコンポストの運営も行う。バランスの取れた優しい世の中を目指し、仕組み作りを行っている。
宇都宮 裕里さん
株式会社4Nature 企画・事業推進
昨年10月から渋谷区民。コミュニティコンポストの運営に携わる。表参道のCOMMUNEではのべ110人以上のメンバーが活動してきた中で、中里さんともここで知り合う。コミュニティでは、都市でのコンポストの使い道を模索・議論する場として、その土を屋上菜園で活用するほか、メンバー間の交流やコラボレーションも生まれ、有機的なコミュニティとなっている。
中里 希さん
ことり食堂 店主
今回のプロジェクトの発起人。神宮前のことり食堂では、有機野菜を使ったランチとスープが大好評。コミュニティコンポストへの参加をきっかけに、自分でもコンポストを始める。
土井田 理以さん
学校法人 河合塾 就学前教育事業 推進リーダー
企業主導型保育所 きっともっと保育園の立ち上げメンバーとして現在も運営に携わる。普段から保育園と地域との交流を大切にしており、今回の取り組みにも共鳴した。
岡崎 千治さん
千駄ヶ谷大通り商店街振興組合理事
千駄ヶ谷の「地域子育てコーディネーター」としても、地域に根を張り広く活動している。2019年に渋谷おとなりサンデー(クリエイティブ町内会)を通じて土井田さんと知り合った縁で、この取り組みの舞台にきっともっと保育園を紹介した。
シブヤの資源を、シブヤに還す。
(左から4Natureの宇都宮さん、ことり食堂の中里さん)
そもそも、どうして保育園で土づくりを行うことになったのか。きっかけは、ことり食堂を営む中里さんのある問題意識からでした。というのも、中里さんは食に関わる仕事柄、以前から生ごみを利用できる方法に関心を持っていたのです。そこで4Natureさんが運営する1.2 mile community compostに参加し、自宅でコンポストを始めたと言います。そして着々とコンポストが出来るなかで、次はその土を還す場所を自分で見つけたいと思うように。せっかくなら近所で使ってもらえるところがないかと、中里さんは堆肥の活用先を探していました。
(千駄ヶ谷の地域子育てコーディネーターの岡崎さん、きっともっと保育園の土井田さん。)
その話を聞きつけた岡崎さんは、コンポストの活用先として、土井田さんに相談を持ちかけます。というのも、きっともっと保育園は先進的で、前向きな考え方を持っている保育園だという印象があったから。最近もプロの方々を招いた人形劇を実施するなど、教育と地域に熱心な姿勢を持っています。
土井田さんは10年以上にわたって、教育の分野でキャリアを積んできました。その経験から、保育園運営には現場の先生たちだけでなく、多様な人間関係や身近な社会との接点が重要だと実感していました。そこでこれまでにも、学びの場を保育園の外に広げるべく、地域の方々を「先生」として招いた交流型のイベントを実施。コンポストを使った土づくりは、子どもたちにとって自分の身の回りの世界に目を向ける良い機会になるはずだと考え、今回のプロジェクトに共鳴しました。
(4Natureの平間さん、宇都宮さん)
こうして、ことり食堂のコンポストが保育園のプランターの土として再利用できることに。またことり食堂だけでは足りなかった分のコンポストは、4Natureさんのコミュニティメンバーさんが提供してくれることになりました。コミュニティコンポストをはじめ、資源の再利用のことをよく知っている4Natureさんのおかげで、当日はとてもわかりやすく楽しい土づくりの時間に。今回のプロジェクトを中里さんから相談された宇都宮さんは、もともとコミュニティのメンバーさんからのつながりだということと、近隣で関係性をつくっていけるので、「断る理由が見つからなかった」と語ってくれました。さらに、以前からコミュニティコンポストの需要や広がり、コミュニティと地域とのつながりについて考えていた平間さんは、保育園という教育機関で子どもたちと一緒に土づくりができることに大きな可能性を感じていました。
土づくりが、関係人口を増やす。
当日参加してみて、また今回あらためて取材の場で意見交換をするなかで、どんな感想を持ったのでしょうか。皆さんに聞いてみました。
(取材は、保育園の一室で実施。園児用の小さい椅子が、なんだか落ち着きます(笑)。)
中里さん:コミュニティコンポストに参加してよかったのは、コンポストのやり方を教え合える仲間がいたこと。一人では続かないことも、誰かと一緒だと続けられることを実感しました。その後、自分でもさらに続けていくためには、出来たコンポストを再利用する場所がもっと近所にあったらいいなとも思うようになり、その方法を探していました。保育園はお店からも近いですし、なにより子どもたちのために活動できたことがうれしかったですね。子どもって、未来だと思うんです。
宇都宮さん:昨年8月から表参道でコミュニティコンポストを始めた時から、近隣の地域の方と密にコミュニケーションを取りたいと考えていました。今回の取り組みは、「なんかいいよね」と思えるハードルの低さが、子どもたちやメンバーの皆さんにとってもよかったのではないでしょうか。大人になるにつれて人間関係や行動範囲は固定化してしまいがちですが、こうした活動は地域での新たなつながりをつくる可能性を秘めています。
平間さん:地域でのつながりが増えれば増えるほど、街の安全に近づきますしね。そういう意味で、地域の方を先生に招くという土井田さんの考え方はとてもいいと思いました。
土井田さん:先生たちは保育のスペシャリストですが、渋谷区内には多彩な分野のスペシャリストがいます。社会で活躍されている皆さんから、さまざまなことを教えてもらっていますね。世の中が便利になる一方で、仕組みが複雑化したり、見えづらくなったりしています。だからこそ幼児教育においても、生み出すことやその中で生まれるコミュニケーションを大切にしたいと思っているんです。
岡崎さん:小さいときの経験や記憶は、タイムカプセルのようにその場所に保存されるような気がします。土をさわると、その場所への愛着が生まれますよね。たとえ住んでいなくても、こうした活動に参加することが、渋谷の関係人口を増やすことにつながるのではないでしょうか。そういう意味でも、土づくりはおもしろいですよね。
平間さん:私も、地域づくりの観点からこの活動の面白さを感じていました。地域で資源を循環させ、その過程で地域の人とつながる。それってとても豊かなことですよね。こういう暮らしのモデルが、これからもっと増えるといいなと思います。そんな街に、私なら引っ越したいです(笑)。
中里さん:本当にそうですよね。この活動の始まりは私の個人的な相談ごとでしたが、こうしてさまざまな分野の皆さんとつながり、実現できたことにとても感謝しています。これからも、良い形で続けていけたらうれしいですね。
中里さんの思いと行動をきっかけに始まった土づくりのプロジェクト。取材をしていて、今回の活動はきっと序章にすぎないのだろうなと感じました。肥沃な大地から新芽が出て、花を咲かせ、やがて作物が実るように、このプロジェクト自体も、今回の土づくりを基盤に大きく成長していく予感がしました。この取り組みは、地域を耕すきっかけになるはず。その輪がもっともっと広がっていくことを、心から楽しみにしています。
渋谷区には、まだ知られていない地域活動がたくさんあります。渋谷という地域のことを知りたい人も、おとなりサンデーで何か企画したい人も、引き続き「PICK UP! LOCAL ACTION」をぜひチェックしてみてください!
テキスト:家洞 李沙(Fan club)