2022年1月20日
【PICK UP! LOCAL ACTION】 #11 ほかの誰かのことを知る場所、笹塚駅前広場
「PICK UP! LOCAL ACTION」は、渋谷区内のユニークな地域交流・地域活動を取材し紹介していく連載です。2021年の渋谷おとなりサンデーは終了しましたが、事務局では引き続き、地域に根ざして活動し続ける人たちの取り組みを応援していきます。
今回取材したのは、改修後の笹塚駅前広場で行われた「ヒューマンライブラリー」という活動。笹塚駅前広場の改修ために、地域の方々へ真摯にヒアリングを行っていたことはこの記事でお伝えしましたが、今回はあれから約半年が経った今の様子をレポート。広場が無事に完成したとのことで、ここでの初めてのイベントの様子を見させてもらいながら、笹塚駅前広場が今後どのような場所になっていきそうか、お話を伺ってきました。
「街に開かれたリビング」へ。一歩ずつ、着実に近づいている。
けやきの木の周りに独立して置かれていたベンチは撤去され、ひとかたまりの大きなウッドデッキに変わった笹塚駅前広場。完成後たったの2日だというのに、まるで以前からそこにあったかのように、自然と人々が集まってきています。座って食事をとる人、パソコンで作業をする人、かけ登って走り回る子どもたち。すでに椅子のようにも机のようにも使われていますが、ほかにも、ここを舞台に見立て工夫することで、音楽イベントや幼稚園の発表会、演劇などの会場として使うこともできそうです。自由度あふれるこのウッドデッキは、これからもさまざまなシーンで使われていく予感がします。
建物沿いの植物は整理され、その周りにも腰掛けられるようになり、明るく開放感のある印象に。さらに広場の出入口もフラットになったことで、ベビーカーや車椅子の通り抜けもしやすくなりました。
(上:改修後の笹塚駅前広場。ウッドデッキが置かれたことで、待ち時間に思わず立ち寄ってしまう場所に。人通りも増えつつある。 下:改修前の様子。)
本プロジェクトの責任者である角田さんは以前、「笹塚駅前広場が、街に開かれたリビングのような場所になったなら」と、教えてくれました。完成したからには、広くさまざまな活動の舞台として使ってもらいたい。もっと言えば、この地域の人を巻き込みながら、社会的に意味のあるイベントの会場として活用してもらいたい。そこで改修後初めてのイベントとして、NPO法人シブヤ大学主催の「ヒューマンライブラリー」が行われることになりました。
すべてを知ることはできない。
だからこそ「知らない」ということに気づき、敬意をもって関わる。
ヒューマンライブラリーとは、「人を本に見立てて読者に貸し出す図書館」として、読者(参加者)と本(障害者や社会的マイノリティの人)とが対話をすることで、相互理解を深めることを目的とした取り組み。2000年にデンマークの音楽フェスの一企画として行われたのが始まりで、現在、世界各地で開催されています。今回のテーマは、社会的マイノリティ。読者は気になったことを素直に聞き、その問いかけに本役の方が答えていきます。
私も今回が初参加。恥ずかしながら、本役の方のもつ社会的マイノリティについて知らず、お話ししてくださることも、初めて聞くことばかりでした。にもかかわらず、本役の方は、私たちが「知らない」ということを前提に、とてもフラットな姿勢で、楽しく問いかけに答えてくださっていたのが印象的でした。そのときに感じたのは、社会的マイノリティの種類は自分の想像以上にたくさんあるということ。そして、自分自身も何かの社会的マイノリティである可能性があるということ。社会的マイノリティのすべてを知りきることはむずかしいけれど、誰に対しても敬意を持ち、理解しようと試みることならできるかもしれないと思いました。
(ヒューマンライブラリーの様子。数名1組になって対話しているところ。)
これまで、渋谷ヒカリエや代官山蔦屋など屋内で行うことが多かったヒューマンライブラリー。今回は青空の下で、ほどよく人通りのある場所だったからこそ、いつもよりリラックスして対話を続けられた方がたくさんいたようです。さらに、駅へと向かう人の中には、イベントの様子に興味をもち、足を止める姿も。ヒューマンライブラリーの活動は、笹塚駅前広場で地域の人どうしが知り合える可能性を、大きく広げてくれました。
コーディネートを担当しているNPO法人シブヤ大学の田中さんは、「ふだんの生活では、自分と近い背景の人と話しているはず。そういう意味でヒューマンライブラリーは、自分と背景の異なる人との対話ができる場所。ここでの出会いで考え方が変わることもあれば、ここから新たなつながりが生まれることもあります」と教えてくれました。ヒューマンライブラリーのような他者への理解が、ここ笹塚駅前広場で日常的に行われたなら。
「人々が知り合うきっかけをつくりたい」
そんなメッセージを込めて、これからも。
(左)角田 匡平さん
京王電鉄株式会社所属、フレンテ笹塚事務所所長、京王クラウン街笹塚商店会会長。本プロジェクトの責任者を務め、改修前にはさまざまな地域の方々へヒアリングを行った。
(右)田中 佳祐さん
新卒で中学校の教員を勤め、現在NPO法人シブヤ大学所属。約3年間、ヒューマンライブラリーのコーディネートを担当。そのかたわら、ブックガイドや書評の執筆など、本にまつわる仕事にも携わっている。
改修を経て、よりオープンなスペースへと生まれ変わった笹塚駅前広場。そして今回新たに、掲示板が設置されました。木枠で囲まれ、大きさも十分。町内のお知らせをはじめ、子どもたちの絵など、笹塚のさまざまな情報を発信する場所として使われる予定です。さらに、掲示された紙の貼り替えや広場の清掃は、笹塚の福祉作業所の方々が仕事として行うことに。笹塚駅前広場を地域の人たちの手で育てていく準備も始まっています。
掲示板の設置も、大きなウッドデッキも、開催されるイベントも、そのすべてが「笹塚で過ごす人どうしが知り合うきっかけをつくりたい」という角田さんたちからのメッセージです。ここで出会う人は、最初は知らない人どうしかもしれません。でも少しでも理解し合うことができたなら、この街についてもう少しだけ知ることができたなら、笹塚という街を住みやすいと思う人が今より増えるかもしれない。笹塚駅前広場は、そんな可能性のある場所になりました。
渋谷区には、まだ知られていない魅力的な地域活動がたくさんあります。渋谷という町のことを知りたい人も、地域で何か始めたい人も、引き続き「PICK UP! LOCAL ACTION」をぜひチェックしてみてください!
テキスト:家洞 李沙(Fan club)